お膳を使った食事
 お膳は一人ひとりが食卓をもつことになるので、食べる時間や場所をわりと自由にすることができます。格式の高い家では、いちばん最初に主人(父)が食べ、その次に家族が、その次に使用人というふうに、ひとつの家で食事時間がバラバラなこともありました。それに料理の内容も主人と家族、そして使用人とでは、明らかに違っていたようです。しかし庶民の多くは、食事を用意する手間や時間の問題もあって、家族が一緒に食事をしていました。とはいえ家の中の上下関係ははっきりとしていて、料理を出す順序、座る場所が決められ、台所からいちばん遠い席が上座で、主人の場所となっていました。
 身分や貧富の差に関わらず個人用のお膳が使われたことや、家族がそれぞれ自分用のお椀やお箸をもつことは日本の特徴的な習慣です。また、一人用の低いお膳で食事することは、日本特有の食事作法やマナーもつくっていきました。お膳の前に正座して、茶碗やお椀は手にもち、汁ものは口をつけて飲むようにします。食べたり、飲んだりするときも、大きな音をたてず、おしゃべりも好まれませんでした。背筋を伸ばし、肘をはらないようにして、美しい姿勢で食事をすることが家庭でしつけられたのです。
参考資料:「ちゃぶ台の昭和」(河出書房新社) 小泉和子 編

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