住まいの記憶
 さて、この項がいちばん見えにくい価値になりますが、小さいころによく遊んだ広場や住まい中の特別な場所が記憶に残っていませんか。大きな柱や階段の手摺りが妙に思い出深かったり、街中では古い神社の境内や小さなお地蔵さん、何百年たっているか分からないほどの大きな樹木、迷路のような路地やしゃれた洋館、大きな家の板塀など、何げない見慣れた風景は、いつしか人の心に刻まれます。このようなものや風景は、たとえなくなってしまっても、生活そのものに支障がでるわけではありません。しかし、2度とつくることのできない、かけがえのないものです。長年暮らしてきた家々や街の風景は思い出として止まり、それが誇りになったり、懐かしさや嬉しさを感じたりして、それぞれの人の心のよすがとなります。このような風景や小さな時間の積み重ねは、土地や生活文化の一部であり、歴史的な資産=価値といえるのです。
 京都の街は千二百年以上の歴史があり、街のいたるところに古い寺院や町並みが残されています。こうした建物や風景が京都特有の個性をつくり、それを見たり触れたりするために世界中から多くの人が訪れています。そして、人類共有の財産にもなっているのです。

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