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町家の再生と活用
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町家等再生・活用ガイドライン 目次へ
第1 目的と位置づけ第3 町家等を活かしたまちづくり
第2 町家等の再生・活用
3.町家等の再生・活用の改修手法


 町家等の再生・活用のための改修手法については、原形を復元する、外観の主要部分のみを残すなど様々な可能性を検討しその中から所有者のニーズ個々の町家等の状況等に応じて選択されることが望ましいが、その際、(1)を原則とし、(2)?(4)を参考にしつつ、適切な検討・選択が行われることが望ましい。


(1) 改修手法の原則


1.町家等の良さを活かす改修
 町家等がもともと持っている空間、意匠、工夫、素材等の良さを残し又 は活かすような改修を行う必要がある。
2.町家等の特性と活用ニーズの調整
 町家等を再生し、活用し続けていくためには、活用ニーズに合わせて居住性の向上等を図る必要があるが、町家等の持つ空間特性や、町家等に施された工夫をどのように活かすかについて十分検討した上で、適切な改修手法を選択する必要がある。
3.安全性の確保
 町家等は、一般的に、建築基準法の制定前に建築されたものであり、また、老朽化による腐朽や蟻害などにより構造、防火等の安全性が低下していたり、木造密集市街地に立地する場合も少なくない。町家等に安心して暮らせるよう、構造安全性や火災時の耐火性能などの安全性を可能な限り向上させることが望ましい。


(2) 全体計画に関する手法


1.町家等の空間特性の活用
 町家等がもともと持っている空間、意匠、工夫、素材等の良さを残し又 は活かすような改修を行う必要がある。
ア.通り庭や土間の活用
 通り庭や土間による動線、通風路が確保されている場合、この機能や役割を活かした改修を行うことが望ましい。例えば、通り庭や土間をそのまま玄関や台所として利用するほか、階段、収納、水回り等として利用することが考えられる。また、居室等として利用する場合、全体の配置を十分に検討するとともに、床の設置に当たっては、室内の通風のほか、床下通風のための換気口の配置、メンテナンス等に留意することが望ましい。
イ.吹き抜けの活用
 通り庭や土間等に吹き抜けを設け、採光、煙出しの機能が確保されている場合、吹き抜けの中空の横架材等による意匠を活かした改修を行うことが望ましい。例えば、吹き抜けを利用した階段の設置、炊事の排気設備の設置を行うことも考えられる。
ウ.小屋裏の活用
 小屋裏は天井板で覆われている場合が多いが、例えば、その中の屋根の傾斜小屋組の構造材の意匠を活かした改修を行うことも考えられる厨子2階で天井高が低い場合は、天井板を上げて天井高を確保し、小屋組の形状を活かすことが考えられる。
 なお、小屋裏の改修に当たっては、断熱性、換気にも留意する必要がある。
エ.開放的な間取りの活用
 間仕切りとしてふすまや障子等の建具が用いられている場合、可変的で開放性の高い間取りを活かした改修を行うことが考えられる。なお、プライバシーの確保が必要な場合、居室の配置を上下階に分けるなどの工夫が考えられる。
オ.庭等の活用
 中庭、坪庭、奥庭や井戸などを有する場合、この採光、通風、通路、防災等の機能や空間を活かした改修を行うことが望ましい。
2.周辺との調和
ア.道路空間との調和
 表構えに軒下空間、可変式の床几等が設けられている場合、これらを歩行者空間と一体的に利用できる空間に改修を行うことも考えられる。店舗等への用途に変更するなど表構えを大きく改修する場合にも、周囲の建築物との軒下空間や壁面の連続性に配慮することが望ましい。
 なお、駐車場については、一般的に敷地ごとに屋外に設けることが困難であり、地区ごとに集合的に確保することが望ましいが、1階部分に設ける場合は、出入口を格子戸にするなど街並みに配慮することが望ましい。
イ.隣地への配慮
 町家等は隣地とのプライバシー日照通風の確保などを図るため建築物の配置、形状、開口部の位置等について配慮されているが、これを活かした改修を行うことが望ましい。増築や間取りの変更を行う場合においても、このような点に配慮することが望ましい。
3.安全性の確保
ア.防火性能の確保
 建築物の用途、規模、立地する地域等に応じ、一定の防火性能を確保する必要があるが、その際、以下のような告示の基準が参考となる。
大断面の製材等を用いたいわゆる「燃えしろ設計」により45分間又は1時間の防火性能を有する建築物の設計が可能(平成12年建設省告示第1358号、平成12年建設省告示第1380号等)
土塗壁による20分間又は30分間の防火性能を有する外壁、垂木・野地板に防火被覆をしない30分間、45分間又は1時間の防火性能を有する軒裏などの仕様基準(平成12年建設省告示第1358号、平成12年建設省告示第1359号、平成12年建設省告示第1362号、平成12年建設省告示第1380号)
 このほか、一定の性能基準に適合させることにより必要な防火性能を確保することもできることとされており、これらの活用により、町家等の外観等をなるべく損なわない方法を選択することが望ましい。((3)3.参照)
イ.構造安全性の確保
 構造安全性を確保するため、建築物の老朽度や地盤等を十分に調査した上で、伝統的構法に留意しつつ、必要な補強方法を選択することが望ましい。その際、告示基準に位置付けられた土塗壁、面格子壁、落とし込み壁などの壁の強さについても構造安全性の評価の対象することができる。(昭和56年建設省告示第1100号)
 また、耐震診断や補強の方法については「木造住宅の耐震診断と補強方法」(発行:(一財)日本建築防災協会)などが参考になる場合もある。
ウ.接道の確保等
 建築物の用途、規模等に応じ、一定の接道を確保するほか、工事の内容によっては建ぺい率、斜線制限等の形態規制に適合させる必要があるが、連担建築物設計制度等の各種緩和措置(第3 3(1)3.参照)を適切に活用することが望ましい。
4.様々な用途としての活用
ア.住宅
 住宅として活用する場合には、居住者のライフスタイルに適合するよう、町家等の良さや特性を踏まえつつ、居住者の住まい方をあらかじめ明らかにした上で改修を行う必要がある。
 例えば、続き間型の可変性の高い間取りや各室の伝統的しつらえなどの原型を活かした改修のほか、リビング・ダイニングと一体化したキッチンやプライバシーを確保した個室への改修上下階を二世帯で区分し又は、庭等の奥に離れを設けるなどの2世帯住居とする改修など、様々なパターンの中から、居住者の住まい方に適合した方法を選択することが望ましい。
イ.併用住宅
 町家等はもともと併用住宅であった場合も多く、原型の空間を活かした改修を行うことが望ましい。
 例えば、店舗部分は、一般的な店舗のほか、空間の良さを活用したアトリエやSOHO等に利用することも考えられる。また、住宅と店舗等との間は、通り庭を介した用途の分離や上下階による分離の方法が考えられる。
ウ.商業施設
 物販店舗、飲食店舗等の商業施設として活用するに当たっては、具体的用途や営業形態により、町家等の原型を活かした改修から内部空間の全面改修等幅広い改修内容の選択が考えられるため、町家等の良さや特性を踏まえて、その営業形態を明らかにした上で改修を行うことが望ましい。
 例えば、通り庭や土間、座敷を店舗等の空間として活かしたり、平土間にする改修が考えられる。また、2階を店舗等として利用する場合、吹き抜けによる上下階の高さや小屋裏の高さを活かした空間づくりも考えられる。なお、2階を店舗空間とする場合は、床の安全性や階段の勾配などに留意することが望ましい。
エ.地域交流施設
 地域コミュニティの拠点となる地域交流センターや観光情報センターなどとして活用することが考えられる。この場合、来訪者向けの情報スペースや集会室を設けることが考えられる。
オ.共同住宅
 一定の要件を満たすものについては、共同住宅やグループホームとして活用することも考えられる。
 この場合、通り庭を共用部分としたり、各戸を通り庭や中庭に面して配置することも考えられる。


(3) 外観の改修手法


 町家等の外観は、壁面の仕上げ、格子、開口部等は地域や用途により特徴的なデザインとなっているとともに、街並み景観を形成していく上で重要な要素となっている場合が多い。このため、外観については町家等の良さを活かすよう、可能な限り、残せるものは残し、元に戻せるものは元に戻すことを原則とし、その上で、再生・活用のニーズに適合した配慮を行うことが望ましい。
1.街並み景観に調和した外観の改修
ア.街並み景観の形成への配慮
 町家等による街並み景観は、軒線や壁面の位置が揃い、屋根の高さは隣戸との雨仕舞の関係で上下しつつ連続するなどの景観を形成している場合が多く、このような街並み景観が維持・形成されるよう配慮することが重要である。
 もともとの外観が残っていたりその原型が分かっている場合は、それを残したり復元することが望ましいが、そうでない場合であっても、周囲の町家等を参考としつつ街並み景観に調和した外観とすることが望ましいまた開口部の格子を撤去する場合でも原型の開口部等の位置形状、意匠を考慮して改修することが望ましい。例えば、看板などが後で設けられている場合、それを撤去して元の外観を再生することなどが考えられる。
イ.設備等の修景
 新たに空調設備や雨樋、電気メーターなどを設ける場合には、外観を阻害しないよう、可能な限り外観側に設置せず、又は、露出しないよう格子等で囲んだり、街並みに調和した色彩を施すなどの配慮をすることが望ましい。
2.改修用途に応じたファサードの改修
ア.住宅のファサードデサイン
 プライバシーの確保と居住性の向上を勘案して外観の改修を行うことが望ましい。
 1階の玄関や開口部は格子等を設けたデザインとすることが考えられる。例えば、花などによる飾りをするための窓を設けることにより、街並み景観に調和しつつプライバシーを確保することも考えられる。
 2階部分は、原型の外観を残すことが望ましいが、居室を設け開口部の格子等を撤去する必要がある場合でも、原型の開口部の位置や形状を活かすことが望ましい。
イ.店舗等のファサードデサイン
 営業形態を勘案した外観とすることが望ましい。
 1階部分は、開放的な外観とすることが望ましいが、営業形態に応じて、格子等を設置した閉鎖的なファサードにすることも考えられる。
 2階部分は、原型の外観を残すことが望ましいが、店舗からの眺めを確保するために開口部の格子等を撤去する場合でも、原型の開口部の位置や形状、意匠を活かすことが望ましい。
 特に、看板等については、街並みを損なうような大きなものなどを避け、町家等自体が目印となる工夫や、伝統的な様式の看板やのれんの利用など町家等のデザインにふさわしいものとすることが望ましい。
3.安全性の確保
 建築物の防火性能を確保するため、仕様基準又は性能基準に適合する必要がある((2)3.参照)が、特に、仕様基準の適用に当たっては、以下の事項に留意することが有効である。
ア.外壁の防火性能
 以下のような、30分間の防火性能を有する例示仕様を用いる。(平成12年建設省告示第1359号)
土蔵造
土塗真壁造の裏返塗りをしたもので、塗厚さが40?以上のもの
土塗真壁造の裏返塗りをしないもので、塗厚さが40mm以上のものとし、かつ、柱のちり寸法を15mm以下としたもの
土塗壁で塗厚さが30mm以上のものとし、かつ、厚さが12mm以上の下見板を張ったもの
屋外側を裏返塗りのない土塗壁で塗厚さが20?以上のもの(下見板を張ったものを含む)とし、かつ、屋内側に厚さ9.5mm以上のせっこうボードを張ったもの等
イ.軒裏の防火性能
 以下のような、30分間又は45分間の防火性能を有する例示仕様を用いる。(成12年建設省告示第1358号、平成12年建設省告示第1359号)
土蔵造(30分間)
木ずりしっくい塗りで、塗厚さが20mm以上の防火被覆をしたもの(30分間)
木毛セメント板張の上に厚さ15mm以上のしっくいを塗って防火被覆としたもの(30分間)
厚さ30mm以上の野地板と垂木を木材で造り、かつ、厚さ45mm以上の面戸板を設け、取合い部分に炎を遮る措置を施したもの(45分間)等
ウ.開口部の防火性能
 開口部に設けられる格子は町家等の代表的なデザインモチーフの一つであり「京格子「奈良格子「米屋格子「千本格子」等々の多様な意匠がある。それぞれの個性を活かしながら、アルミサッシだけでなく防火設備として認定をうけた木製サッシ等も活用し、一定の防火性能を備えた開口部とする。なお、隣地側の開口部については、特に延焼防止のための配慮を行うことが望ましい。


(4) 居住性向上のための改修手法


 町家等の空間や構造の特性を活かしつつ居住性の向上を図るためには、その改修に当たり、設計や工法に関する検討が必要となる。
1.通風、温熱環境への配慮
ア.通風の確保
 町家等が持つ通り庭や、開放可能な建具等による間取りなどの町家等の特長を活かし、風の通り道を確保した改修を行うことが望ましい。
イ.断熱性の向上
 床板や外壁の土壁を厚くし、屋根裏や外壁に断熱材を入れ、開口部の取り替え等により断熱性を高めることが考えられるが、この場合、外観等の意匠に十分配慮することが望ましい。
2.採光の確保
 採光が確保できる開口部は表側、裏側、上方に限られる場合が多いことから、居室の配置について検討した上で改修を行うことが望ましい。天窓を吹き抜けや小屋裏に設けたり、坪庭の設置により開口部を増やすことも考えられる。
3.快適な水回りへの改修
ア.台所の改修
 土間や吹き抜けの開放的な空間を活かしたタイル張りとし、かまどを再生するなど原型を活かした改修や、明るさに配慮した内壁面の仕上げとし、土間に床を設け、システムキッチンを設置する改修など様々な方法が考えられ、この中から住まい方に応じて選択する。
 全体の配置計画の中で台所の位置を検討し、例えば、2世帯住居として活用する場合は、2階に台所を設置することも考えられる。
イ.浴室、便所の改修
 浴室については、既存のものを活かした和風の浴室にしたり、ユニットバスや洗面ユニットなどへの改修が考えられまた便所については既存のものを活かした便所にする、大小2つの便所を1つにするなどが考えられ、住まい方に応じて選択する。町家等の浴室や便所は中庭に面し屋外の濡れ縁から入る場合が多いため、既存の浴室や便所を活かす場合、濡れ縁を屋内化し、居室等から入り易くすることも考えられる。
4.設備等の改修
 給排水、電気、ガス等の設備は、コストとの関係から既存の設備を活用することが望ましいが、老朽化していたり容量不足の場合などは改修を行う必要がある。このため、既存設備の状況を十分に把握し、活用可能なものについて検討する必要がある。
 なお、設備の改修に当たっては、メンテナンスに配慮するとともに、外観を損なわないよう配慮することが望ましい。
5.バリアフリー化
 町家等の構造特性のみならず、居住者等の家族構成、身体状況やライフスタイルを十分に勘案して適切な改修内容を選択することが望ましい。
ア.床段差の解消
 玄関の戸の改修、土間から座敷へのスロープや段差解消機の設置、土間部分への床の設置などの改修が考えられる。
イ.敷居等による段差の解消
 板の間と敷居等との段差を解消することが望ましい。また、簡易な工法として三角形の型材で段差処理することも考えられる。
ウ.手すりの設置
 階段については建築基準法において手すりの設置が義務付けられているが玄関水回りなどについても手すりを設置することが考えられる。この際、階段や廊下の有効な幅の確保に留意する必要がある。
エ.昇降し易い階段
 既存の階段を勾配の緩やかな階段とする改修などが考えられる。この際、梁等の構造材の配置に十分に留意する必要があるが、構造材の付け替えについても併せて検討することも有効である。また、階段を新設する際は、吹き抜けの活用など全体の配置計画も併せて検討する必要がある。
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